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京大化学 2003年度後期 第1問

理論化学

問題

 次の文を読んで, 問1~問3に答えよ。解答はそれぞれ所定の解答欄に記入せよ。ただし, 濃度の単位は \require{mhchem} \text{mol} / l , 体積の単位は l とする。

 ある物質 \rm{A} が次の不可逆反応(1), あるいは可逆反応(2)によって物質 \rm{B} に変化する2種の反応について考える。

\begin{align} &\ce{A -> B} \cdots (1) \\ &\ce{A <=> B} \cdots (2) \end{align}

 それぞれの反応について, 図1に示した2種類の反応器を用いた実験を行った。まず物質 \rm{A} を濃度 [\rm{A}]_0 で含む原料液(物質 \rm{B} を含まない)を, 体積が V となるまで両容器に満たす。その後, 反応器では, 反応開始時刻を t=0 として, 一定温度 T で反応を進行させる。一方, 反応器では, 同じ温度 T で反応を開始させると同時に, 以後は反応温度を T に保ちながら, 原料液を一定の流量 F (単位時間あたりに流れる液の体積)で連続的に反応器に供給し, 出口から同じ流量 F で反応液を流出させる。両反応器は十分かくはんされており, 反応器内の物質量濃度は均一とする。また, 反応による体積変化はないとする。

図1

実験1:反応式(1)に従う不可逆反応の場合

 反応器において, \rm{A} の濃度( [\rm{A}] )の時間変化を測定し, \log_e [\rm{A}] (ただし, e は自然対数の底であり, 値は 2.718\cdots である)と反応時間( t )の関係を調べたところ, 図2に示すような直線関係が得られ, その直線の傾きは, -k であった。この関係式を式で表せば \log_e [\rm{A}] = となる。これより, 反応開始時から \rm{A} の半分が反応するまでの時間はで与えられ, [\rm{A}]_0 に依存しないことがわかる。また, この時刻における生成物 \rm{B} の物質量はである。

図2

 一方, 反応器を用いた実験では, 反応開始後十分な時間が経過した後は, 反応器内のすべての物質濃度は一定になり, [\rm{A}] = \frac{[\rm{A}]_0}{2} となった。このとき, 反応(1)における物質 \rm{A} の反応速度は図2の結果より k[\rm{A}] で与えられるから, 単位時間あたりに反応により消失する \rm{A} の物質量はとなる。また, 単位時間に流出する \rm{A} の物質量は, 単位時間に流入する \rm{A} の物質量はで与えられ, これらの間には

+ =

という物質量のつりあいの関係式が成り立つ。この関係から, 流量 \rm{F} となる。また物質 \rm{A} の濃度が \frac{[\rm{A}]_0}{2} で一定になった状態でと同じ時間だけ実験をつづけたとき, この間に流出液から得られる生成物 \rm{B} の物質量は倍である。

実験2:反応式(2)に従う可逆反応の場合

 反応(2)の正反応における \rm{A} の反応速度は k_1[\rm{A}] , 逆反応における \rm{A} の生成速度は k_2[\rm{B}] でそれぞれ与えられる。また, 反応の進行方向に沿ったエネルギーの変化は図3に示したとおりとする。反応器において, \rm{A} の濃度は, 反応時間とともに図4の太い実線 \rm{a} のように変化し, 十分な反応時間が経過したのち一定になった。この平衡状態で正逆両反応の速度は等しくなることから, 可逆反応(2)の平衡定数 K は, 反応速度定数 k_1, k_2 を用いて K = と表される。

図3
図4

 一方, 反応器を用いた実験でも, 十分な時間が経過した後には, 物質 \rm{A} , \rm{B} の濃度は一定になった。この時の濃度をそれぞれ \rm{[A]_S} , \rm{[B]_S} とすると, 生成物 \rm{B} の物質量に関するつりあいの関係式はとなる。この関係式と K = の関係を用いると, S = \frac{\rm{[B]_S}}{\rm{[A]_S}} という比と平衡定数 K の間には次の関係式が成り立つ。

 この式より, S の値は常に K の値より小さく, 流量 F が小さくなるにつれ K に近づくことがわかる。

問1 文中の~に適切な数式を記入せよ。

問2 実験2の下線部①で記した物質 \rm{A} の一定濃度は \frac{[\rm{A}]_0}{3} であった。可逆反応(2)の温度 T における平衡定数 K の値を求めよ。

問3 実験2において, 反応器を用いた実験を T より高い温度と, T より低い温度で行った。このとき, 物質 \rm{A} の濃度の時間変化は, T より高い温度では図4に示す曲線となり, T より低い温度では曲線となった。図4の中からに入る適切なものを選び, \rm{b} ~ \rm{e} の記号で答えよ。

解説

不可逆反応と可逆反応, 反応器と反応器, 組み合せて 2 \times 2 = 4 通りの場合があり, 順番に考察する流れになっている。反応器では, 「単位時間あたり」の量を使用しているので, 単位に注意しなければならない。ここでは仮に単位時間を [s] としておき, わかりにくいところは単位を明示して考えることにする。例えば流量 F は, 単位時間あたりに流れる液の体積だから, F[l/s] である。

実験1:反応器Ⅰ

図2のグラフは縦軸が \log_e [\rm{A}] , 横軸が t であり, 切片 \log_e [\rm{A}]_0 , 傾き -k の直線だから, \log_e [\text{A}] = \log_e [\text{A}]_0 -kt

イ, ウ

\rm{A} の半分が反応するときの表は以下の通り。

の式で, 縦軸の \log_e [\rm{A}] \log_e \color{red}{\frac{[\rm{A}]_0}{2}} として t を求めると, t = \frac{\log_e 2}{k}

このときの \rm{B} の物質量は, \color{blue}{\frac{[\rm{A}]_0}{2}} \times V

実験1:反応器Ⅱ

反応速度は, 「単位時間当たりの濃度の変化」であるから, 単位は [\text{mol} / (\color{red}{l} \cdot s)] であることに注意。

で求めるものは単位時間当たりの物質量( [\text{mol} / s] )だから, 反応速度 k[\text{A}] = \frac{1}{2}k[\text{A}]_0 に, 体積 V[\color{red}{l}] をかければよい。

オ, カ

図5

流入・流出については, 単位を明記すると図5のようになる。

与えられたつりあいの関係式を解くだけ。つりあいの関係式が, 図5 \rm{A} を中心とした図と対応していることも確認しておこう。結果は F = kV となる。

また検算のため, 単位を確認しておくことをおすすめする。左辺の F は, はじめに述べたとおり, [l/s] 。右辺の V はもちろん [l] 。右辺の k は, より k = \frac{\log_e 2}{t} となり, \log_e 2 は無次元の定数であるから, k の単位は [/s] 。よって, 確かに右辺の単位も [l/s] となっている。

図5を見ると, 十分時間経過後では \rm{A} \rm{B} の濃度や物質量が等しいので, 単位時間あたりに流出する物質量も, \rm{A} \rm{B} で等しいことがわかる。あとは, 時間を掛けると総物質量となり, の答えとの比を取ればよいだけ。の関係式も使うと, 答えは \log_e 2 倍となる。

実験2:反応器Ⅰ

典型問題。定義より K = \frac{[\text{B}]}{[\text{A}]} であり, 速度が等しいという条件 k_1[\text{A}] = k_2[\text{B}] を使うと, K = \frac{[\text{B}]}{[\text{A}]} = \frac{k_1}{k_2}

問2

物質 \rm{A} が一定濃度 \frac{[\rm{A}]_0}{3} となったときの表は以下の通り。

よって, K = \frac{[\text{B}]}{[\text{A}]} = \frac{2/3}{1/3} = 2

問3

図3より, \ce{A -> B} の反応は, \text{A} = \text{B} + Q(Q > 0) と書ける発熱反応だとわかる。

高温にしたときは, 発熱しすぎないように左向きに平衡が移動し, \rm{A} の量が増える。よってcかd。またそもそも高温にすると反応速度は上がるので, cとdのうちで反応速度が速いのはdである。

低温にしたときも, 同じように2段階で考えると, 答えはbとなる。

実験2:反応器Ⅱ

誘導に従い物質 \rm{B} の収支について考える。 \rm{A} と異なり \rm{B} は流入はないので, ①流出量, ②反応によって増える量, ③反応によって減る量, を考えればよい。図を書くと以下のようになる。

①②③それぞれ, 単位時間当たりの物質量の増減と考えて, 単位に注意して計算すると, 以下のようになる。

①: [\text{B}]_\text{S}[\text{mol}/l] \times F[l/s] = F[\text{B}]_\text{S}[\text{mol}/s]
②: k_1[\text{A}]_\text{S}[\text{mol}/(l \cdot s)] \times V[l] = k_1V[\text{A}]_\text{S}[\text{mol}/s]
③: k_2[\text{B}]_\text{S}[\text{mol}/(l \cdot s)] \times V[l] = k_2V[\text{B}]_\text{S}[\text{mol}/s]

①+③=②より, 答えは F[\text{B}]_\text{S} + k_2V[\text{B}]_\text{S} = k_1V[\text{A}]_\text{S} となる。

直前の式より (F + k_2V)[\text{B}]_\text{S} = k_1V[\text{A}]_\text{S} だから, \frac{[\text{B}]_\text{S}}{[\text{A}]_\text{S}} = \frac{k_1V}{F + k_2V} と変形でき, 分母分子を k_2V で割ると, 与えられた形となる。答えは \frac{F}{k_2V}

振り返り

反応器でつりあいの関係式を立てるところが多少難しいので, ここで差が付くと思われる。単位に注意して, 図を書いて考えることが大切。

また逆に言えば, 問2や問3は反応器に関する問題で簡単なので, 取り逃してはいけない。

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